vol.273 2022 spring

世界の現場から

白い砂浜をとりもどすまで

Maldiveモルディブ

〜水に浸る学校〜

学校の目の前のビーチに立つファティマスさん(15歳)
© UNICEF/UN0543151/Faheem

インド洋に浮かぶ約1200の島々からなり、青い海と白い砂浜、美しいサンゴ礁で知られるモルディブ共和国。そのうちのひとつ、ディフシ島に住むファティマスさんは、「高潮が起きると、靴と靴下を脱いでスクールバッグに入れるんです。教室にたどり着くまで、水の中を歩かなくてはならないから」と話します。

海面上昇から学校を守る

ディフシ島は首都マレから船で45分ほどの小さな島。ファティマスさんの学校は、海岸線からわずか30メートルしか離れていません。温暖化による海面上昇から学校を守っているのは、年々数が減っているヤシの木と、正門に並べられた土嚢だけ。年に数回は高潮が起きて、校庭が海水で水浸しになり、正門も使えなくなります。

2015年以降、海面上昇ですでに約60メートルにわたって砂浜が失われているディフシ島。アイシャス校長は、「私の子ども時代、砂浜は木々でいっぱいでした」と懐かしみます。「濃い緑の茂みがあって、見通しがきかないほどでした。でも今は、かつてあった砂浜の大部分が失われてしまいました」

海岸には、一列に並べられた土嚢や、コンクリートの護岸や防波堤が目立ちます。「2050年に人が住めるような土地がなくなり、今世紀末には完全に消滅する」と予測する声もあるこの国では、気温の上昇により、デング熱のような感染症も増加しています。

最近、高台に建て替えられた新しい校舎があるものの、根本的な解決策にはならないと校長は考えています。「現実的には、20年も経たないうちに、海が校舎の目の前に迫ってくるでしょう」
ファティマスさんの父親イブラヒムさんは電力会社に勤めており、電力供給も海面上昇の影響を受けていると言います。「配電ボックスが浸水で壊れます。それで島全体が停電になることもあり、常に修理やメンテナンスが必要です」

太陽が最初に昇る島

モルディブの島々の3分の2近くで、海岸線の浸食が深刻な問題となっており、特に若者たちの間で将来への不安が広がっています。近年実施された意識調査では、若者の4人中3人が気候変動の影響を心配しており、92%がさらなる対策を講じるべく支援を望んでいると回答しました。

モルディブ政府は、2023年までに使い捨てのプラスチックを廃止し、2030年までに温室効果ガスの排出量ゼロを目指すなど、気候変動対策に意欲的に取り組んでいます。しかし、世界の温室効果ガス排出量のわずか0・003パーセントを占めるにすぎないモルディブが国を挙げて行動しても、海面上昇は止められず、若者たちの暗い見通しを覆すことはできません。

ユニセフ・モルディブ事務所のマルジャン代表は次のように訴えます。「気候変動の危機は子どもの権利の危機であると認識しなければなりません。モルディブの子どもたちや若者にとって、気候変動は、彼らの生存を直接脅かすものです。あらゆる気候変動に関する交渉や決定において、子どもや若者を中心に考える必要があります。世界は温室効果ガスの排出量削減のための行動を加速し、必要な投資を行い、若者と積極的に協力しなければなりません。また、子どもたちに環境教育の機会を提供しなければなりません 」

ファティマスさんは、故郷を見捨てません。卒業後は首都の学校へ進学する予定ですが、将来は、モルディブで最初に太陽が昇るこの島に戻り、海岸浸食の解決策を見出すため力を尽くすことを決意しています。「希望を捨てることはできません。白い砂浜をとりもどすまで、私たちは全力で問題解決に取り組んでいきます」

さらなる浸食を防ぐため、ディフシ島の海岸線に並べられたコンクリートの防波堤
© UNICEF/UN0543168/Faheem
海岸線のぎりぎりまで並べられたコンクリートの防波堤
© UNICEF/UN0543189/FaheemMaldives, 2021
海面上昇により海岸沿いの砂浜が失われている
© UNICEF/UN0543164/Faheem
砂浜には土のうも並べられている
© UNICEF/UN0543193/Faheem

Maldive
モルディブ共和国の基礎データ

全島総計:298平方キロメートル(東京23区の約半分)
人口:53.4万人
内訳:モルディブ人37.3万人、外国人16.1万人(2019年モルディブ政府資料)
5歳未満児死亡率:9/1000出生あたり(2018年)

ユニセフの活動

モルディブは、領土の99%以上が海で、わずかな陸地の海抜は平均1・5メートルと低く、津波、洪水、強風、海面上昇など、自然災害に対して非常に脆弱な国です。観光客などが持ち込むプラスチックごみによる海洋汚染も、年々深刻な問題となっています。ユニセフは政府と連携して、子どもや若者に気候変動や環境問題を学ぶ機会を提供するとともに、プラスチック削減の取り組みを支援しています。また、洪水対策や、緊急時の水と衛生、保健面の対応、応急処置、消火活動などの訓練を受けたボランティアがそれぞれの島で「地域緊急対応チーム」を結成。災害が発生した際、政府派遣の対応チームを待つことなく、地元の若者たちが行動を起こせる体制を整えています。

※データは主に外務省HP、『世界子供白書2019』による。
※地図は参考のために記載したもので、国境の法的地位について何らかの立場を示すものではありません。