ワクチンや浄水剤など、支援活動に欠かせない物資。ユニセフは、市場から調達するだけでなく、支援現場の子どもたちのニーズに応えられる製品を民間企業などのパートナーと協働で開発し、世界の支援現場に供給している。
世界のどこで何が起きても72時間以内に支援物資を届ける─そのスピードと確実な供給の拠点となっているのが、デンマークの首都コペンハーゲンにあるユニセフの物資供給センターです。サッカーコート3面分にも及ぶ広大な倉庫には、医療品、学用品、衣類、衛生用品からサッカーボールなどのスポーツ用品まで、850品目もの物資が管理され、24時間体制で稼働しています。コペンハーゲンのほか、ドバイ(アラブ首長国連邦)、ブリンディジ(イタリア)、パナマ(パナマ)などにも倉庫があり、支援活動が円滑に進む仕組みが整えられています。
多くの物資を適正に、効率よく管理し出荷するため、物資供給センターには最新技術が多く取り入れられています。物資の特性上、一部スタッフが手作業で行うものもありますが、搬入と出荷の作業はほとんどクレーンやベルトコンベアなどで自動化されています。2018年にはバーコードをスキャンするだけで物資の倉庫内の移動と出荷、配送が記録できるスマートフォンアプリが開発され、在庫管理が大幅に効率化されました。
物資供給センターの機能は物資の購入や管理、発送だけに留まりません。世界中の支援現場で得た知見を活かし、現場のニーズに合った製品を生み出すことにも取り組んでいます。昨年導入された「高性能テント」も、そうしたイノベーションのひとつです。
武力紛争や自然災害が発生した際、ユニセフが最も優先して届ける支援物資のひとつが、大型テントです。2013年から2018年の6年間に、年平均4650張が、世界中の支援現場に送られ、避難先の仮住まいとしての用途以外にも、診療所や学校(仮設教室)など、様々な目的に使われました。しかし、長年使われてきた大型テントには、地面に固定しにくい、強風や大雨で倒壊しやすい、扉や窓が小さく換気が悪い、大きくかさばり運ぶのが難しいなどの欠点がありました。
こうした課題を解決するため、2018年、ユニセフは、複数のテント製造メーカーと、新たなテントの研究開発に取り組みました。しかし、ユニセフが新たなテントに求めた1000件以上にのぼる条件を満たす製品を生み出すのは、容易なことではありませんでした。参加したアルピンター社のバーバラ氏は、「ユニセフは現場で製品を使う側で、私たちはデザイナーであり製造者。私たちには支援現場の経験がなく、何が求められているか学ぶ必要がありました」と、当時を振り返ります。
何度も何度も知識やアイデアを出し合い、実験と失敗を繰り返しました。そして2年にわたる取り組みの結果、全ての条件をクリアした「高性能テント」が誕生したのです。
新たなテントに施された改良点は大きく4つ。
まず、テントの壁面を従来の傾きのあるつくりから垂直にしたことで、容積が20%広くなりました。また、窓は蚊帳シート、採光シート、カバーの3層構造となり、直射日光からテントを守るためのシェードネットも、テント内部の温度管理を可能にする仕様に変更されました。さらに地面に打ち付ける金具にも改良が加えられ、台風に匹敵する秒速33・3㎞の風圧にも耐えられます。
こうした改良に加え、床面に以前より硬質な材料を充てることで、重量物資もテントの内で保管しやすくしています。また、発電機とソーラーパネルを使った夜間の照明使用も容易になり、24時間体制で行われる支援活動をサポートする強力なツールとしての機能も強化されています。
物資供給センターの製品開発部チーフのマリノ氏は「壁がまっすぐなのでテント内の空間が広がり、机を置いたり社会的距離を保ったりすることができるようになりました。また、換気が改善されたことで教室が涼しくなり、子どもたちが授業に集中できるようになりました」と高性能テントの効果を伝えます。
ユニセフはこれからも、豊富な現場の知見を活かし、子どもたちのニーズに合った物資を開発し届けていきます。
2022年1月、新型コロナウイルスの感染拡大と洪水の被害で、世界で最も長い83週間の休校を余儀なくされたウガンダ西部の地域に、457張の高性能テントが届けられました。ウガンダは、アフガニスタン、フィリピンとともに高性能テントの実地テストが行われた国です。様々な国の気候条件に耐えられるように改良されたテントは、長い間学びの機会を失ったウガンダの子どもたちに、安心安全の学びの場を提供しています。