vol.274 2022 summer

vol.274 2022 summer

特集

忘れない人道危機

ずっとそこにいるユニセフ

巻頭言

芽吹いていく種のために

毎年12月になると、ユニセフは『子どもたちのための人道支援(通称HAC)』と題する報告書を発表します。

ウクライナのドネツク州マリンカの学校で、地下の防空壕に座っているレラさん(10歳)
© UNICEF/UN0150819/Gilbertson VII Photo

シリアやアフガニスタン、ロヒンギャ難民、トンガのような大規模な緊急事態に加え、国際社会の関心がほとんど寄せられていない多くの国や地域で、紛争や自然災害などを背景に子どもたちが置かれている危機的な状況と、ユニセフが展開する緊急人道支援活動を紹介しています。

94億米ドル─日本円換算で1兆1000億円超。昨年12月、ユニセフはこの報告書でタジキスタンやコソボといった欧州の小国のGDP(2021年)をしのぐ規模の支援を国際社会に求めました。

「(今回の戦争が起こる前までに確保できていた資金は)HACで求めた額に大きく及ばなかった」。2月28日、首都キーウ(キエフ)の一時避難先の地下室と思われる場所から(安全確保のため、我々にも正確な場所は知らされませんでした)現地の最新状況を伝えてきたユニセフの現地事務所代表は、東部ドネツク州などで8年前から続いていた人道危機が、いかに国際社会から忘れられてきていたかを、あらためて訴えました。

砂漠に水を撒くようなもの─人為的に発生した武力紛争、特に10年も20年も続く危機の現場で展開する人道支援活動は、そんな風に評されることがあります。「紛争の原因となっている根本的な問題を解決しなければ、いつまでたっても……」ということでしょうか。

人道支援活動には、目の前で繰り広げられている戦闘を止める力はありません。しかし紛争が起きているその場所にも、地域や国、そして国際社会の未来を担う子どもたちがいます。ともすると忘れてしまいがちですが、子どもが子どもで居られる時期は短く、生まれ持った能力を発揮できるようにおとなが必要な支援を提供しなければならない時期も、また短いのです。だからユニセフは、今を生きる子どもたちのために、あきらめずに人道支援活動を続けていきます。たとえ砂漠のような不毛の地に見えたとしても、そこには、水を撒けば、芽吹いて緑になっていく種─子どもたちの未来─があるのですから。

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今、同じ空の下で

ウクライナ、2022年撮影

編集後記

千思万考

「UNは何の略語か知ってる?」。
30年前のボスニアで、突然、同僚から問われました。

「United NONSENSE。
国際連合じゃなくて、ナンセンス(たわごと)の連合だよ」

緊張状態が連続する現場の雰囲気を和らげるため、競い合うようにブラックジョークを言い合っていた私たちですが、実際、地元の方々は、深刻化する内戦に打つ手を持たない国連を、こんな風に見るようになっていました。

「戦場」がかつてないほどお茶の間や手の平の上のスマホの中に入り込んだ今年の春。世界中で、多くの方が国連に同じような思いを持たれてしまったのかもしれません。

それでも、そのボスニア人の同僚は、時に砲撃が迫るなか、スナイパーが潜む廃墟と化した街を走り回り、文字どおり献身的に、国連の一員として人道支援に奔走していました。

家族や友人の命をつなぎ、未来に続く道を途絶えさせないために。

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