vol.274 2022 summer

report

こども家庭庁、
こども基本法がもたらすもの

ある本のモデルとなった家族と話をするスコットランドの子ども・若者コミッショナーのブルース・アダムソンさん
©Children & Young People’s Commissioner Scotland

虐待やいじめなど、子どもを取り巻く様々な課題がある中、昨年から、日本の子どもに関わる法律や制度に大きな変化が起きています。
「こども家庭庁」の設置、そして「こども基本法」の成立です。
ユニセフにとって、そして子どもたちにとって、どのような意味があるのでしょうか?

子どもの権利が基本に

こども家庭庁とこども基本法は、ユニセフにとって、3つのとても重要な意味があります。

まずは、子どもの権利の考え方が、政策の基本になることです。こども家庭庁の創設を決めた「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(2021年12月21日閣議決定、以下「基本方針」)は、一人ひとりの子どものwell-being(幸福度)を高めること、常に子どもの最善の利益を第一に考えること、子どもの権利を保障することなどを掲げています。これらはまさに、ユニセフが長年訴えてきたことそのものです。日本ユニセフ協会は、基本方針策定に向けた有識者ヒアリングにも参加しました。また「こども基本法」は、子どもの権利条約の精神にのっとると謳い、条約の4つの一般原則(*1)を取り入れました。ユニセフは、子どもの権利条約が子どもたちに影響するすべての事柄の基盤、指針であると考えており、協会は、この基本法の成立に向けて働きかけを行ってきました。

*1…生命・生存・発達の権利、子どもの最善の利益、子どもの意見の尊重、差別の禁止の4つが、「一般原則」と呼ばれる、子どもの権利条約の基本的考え方です。

2つ目は、こども家庭庁が、これまで複数の省庁が担っていた子ども政策をほぼ一元的に担い、政策の総合的な調整も行うことです。2020年にユニセフが発表した『レポートカード16』は、様々な政策や状況が相互に作用して子どもの幸福度に影響していることを示し、政策を調整して総合的に推進することで、子どもの幸福度を高めることを提言しました。こども家庭庁には、まさにその役割が期待されるのです。

これらの動きが進む中で開催したオンラインイベント「日本子どもフォーラム~子どもの権利を基盤とした子ども施策の実現に向けて」(2021年11月20日)では、フォア ユニセフ事務局長(当時)が、「日本の皆さまが子どものための新しい政府組織の創設を準備されていることに勇気づけられています」と、こども家庭庁やこども基本法への歓迎と期待を示しました。

子どもたちが権利を学び、参加する

3つ目は、社会における子どもの参加が進むことです。先述の政府の「基本方針」は、子どもや若者の参画は「政策や取組そのものをより良くする」、「社会課題の解決に向けた力を自らが持っているとの自己有用感を子どもや若者が持つ機会にもなる」として、子どもの意見を政策に反映することを明記しました。フォア氏が「子どもと若者の参加がなければ、問題を解決することはできません」と強調したように、これもまた、ユニセフが重視することのひとつです。

子どもの参加を進めるためには、子どもたち自身が権利について学ぶこともとても重要です。協会は昨年、『ユニセフCREハンドブック』という資料を作成しました。(下欄コラム参照)

子どもたちと政策をつなぐ「子どもコミッショナー」

子ども参加を促進する意味でも注目されるのが、「子どもコミッショナー」(*2)と呼ばれる仕組みです。独立の立場で子どものために活動する専門家(組織)で、子どもの声を聴きつつ、子どもに関わる課題について調査し、その解決のための提言を国などに行います。70カ国以上に設置されており、日本でも、こども基本法との関連で一時議論に上りました。

*2…子どもコミッショナー、オンブズマン、オンブズパーソンなど、国により様々な名称があります。

子どもの代弁者として議会で語るブルースさん
©Children & Young People’s Commissioner Scotland

「日本子どもフォーラム」に登壇したスコットランドの子ども・若者コミッショナー、ブルース・アダムソンさんは、子どもたちと歌ったり木登りしたりして長い時間を一緒に過ごし、今度はスーツに着替えて議員などに子どもの声を届けている様子を、生き生きと紹介しました。

社会で声をあげる機会が限られる子どもたちの声を代弁し、制度改善を提言する自らの役割を、「世界でもっともすばらしい仕事だと思っています」とブルースさんは語ります。これまでに、体罰禁止の法改正や、刑事責任年齢の引き上げなどがスコットランドで実現しました。

ほかにも、児童養護施設を出た後のケアの対象年齢の引き上げ(フィンランド)、子どもの貧困対策の拡充(英・ウェールズ)、いじめ対策の改善(ノルウェー、アイルランド)、税と社会保障改革における子どものいる世帯向けの制度改善(オーストラリア)など、多くの成果が上がっています。

常に子どもに寄り添い、子どもの立場で活動する専門家がいることで、想定外の事態や、最も声を上げにくい子どもたちの課題にも対応することができます。コロナ渦では多くの国のコミッショナーが子どもたちの声を聴き、政策の改善を提言しています。もし日本にもこの仕組みがあれば、教育、メンタルヘルスや虐待など様々な課題について、子どもたちの声が活かされたのではないでしょうか。

ユニセフの活動とも密接に関わる子どもコミッショナーは、「日本の子どもたちの参加を促進し、すべての子どもたち、特に最も弱い立場にある子どもたちの権利を実現する鍵となる」(フォア氏)はずです。子どもに関わる人々を結びつけ、子どもたちが「あそこに頼れる人がいる」と思えるような、そんな仕組みができる日をめざし、発信を続けていきます。

ユニセフCREハンドブック
「子どもの権利条約」を学級経営に生かそう

ユニセフは各国で、子どもの権利を大切にする教育を推進しています。このハンドブックでは、学校で子どもと先生が子どもの権利について学び、おとなも子どもも互いの権利を尊重しあえる環境を共に作ることができるよう、ポイントや実践例を紹介しています。2021年9月に発行し、全国の学校に配布しました。

日本ユニセフ協会ホームページよりPDF版をダウンロードいただけます。