世界の現場から
同じ希望を抱いて
Bangladeshバングラデシュ
─ロヒンギャ難民と地元の若者の友情
ソヤイブは、バングラデシュの難民キャンプで生きる14歳の少年です。10歳の時に弾圧を逃れてミャンマーから避難してきて以来、87万人以上のロヒンギャの人々が暮らす世界最大の難民キャンプの粗末な仮設住宅で、一日の大半を過ごす生活を送っていました。キャンプ内では学校に通うこともできず、彼はもう一度学びたいと強く願っていました。
けれどもソヤイブは、難民キャンプの外に出ることをとても怖がっていました。多数の難民が押し寄せたことで、地元住民たちの警戒心が高まっていると耳にしていたからです。実際、もともと豊かではないコックスバザール地域では、難民滞在が長期化するにつれ、犯罪の増加や物価の上昇が起こり、地元住民との軋轢が深刻な問題となっていました。
ある日ソヤイブは、キャンプ内に「ソーシャルハブ」と呼ばれる交流スペースがあることを知ります。そこは、ロヒンギャと地元の若者たちがともに学んだり、本を読んだり、スポーツをしたり、さまざまなワークショップに参加したりできる場所でした。そしてソーシャルハブに通い始めて以来、彼の生活は一変します。
ソーシャルハブは、難民と地元住民との間の緊張関係を緩和するために設置されました。双方の若者たちがともに学び、経験を共有することで、信頼関係を強化し、地域社会の結束を高めていくための場所です。ソヤイブはリーダーシップや社会変革のワークショップに参加。難民キャンプで暮らす若者たちがより質の高い教育を受けられるよう、自らの考えも積極的に発信するようになりました。ITの基礎も学び、さらに高い技術を身に付けたいと意欲を高めています。
ある日ソヤイブは、ロヒンギャ難民の若者に会ってみたいという好奇心からソーシャルハブに来ていた地元住民、バングラデシュ人のジャマール(16歳)とアリフール(15歳)に出会います。ソヤイブの案内で初めてキャンプを訪れたジャマールは、狭い路地や薄汚れた住居など、人々の過酷な生活状況を目の当たりにしてショックを受けた様子でした。 「ジャマールは、僕の家をきれいだと言ったんだ」。ソヤイブは笑いながら、二人の友情が始まったきっかけを話してくれました。ジャマールはありのままを伝えて友人の気分を害するのが嫌で、ユーモアを交えてそんな風に感想を言ったのです。それ以来、ふたりは大の仲良しになりました。いつもソーシャルハブでお互いの国のことを話したり、地域社会の問題を話し合ったりしています。
ジャマールもソヤイブを誘って、自分たちの村を案内しました。ロヒンギャの青年が村を訪問することは珍しく、他の若者たちも集まってきました。「すごい! 友達になったんだね。どうしたらロヒンギャの人たちに会えるの? ってみんなに言われたよ」。以来、多くの若者がジャマールの案内でソーシャルハブを訪れるようになりました。ソヤイブは、ソーシャルハブを通じて、異なる背景を持ちながら同じ考えを持つ同世代の仲間たちと出会えたことに感謝しています。学び、働き、平和に暮らしたい。ロヒンギャの若者も、バングラデシュの若者も、そんな同じ希望を抱いているのです。
面積:14万7千平方キロメートル (日本の約4割、バングラデシュ政府)
人口:1億6,468 万人(2020年、世界銀行)
5歳未満児死亡率:30/1000 出生あたり(2018年)
2017年夏、ミャンマーで激化した弾圧を逃れた少数民族のロヒンギャの人々が、国境地帯のコックスバザールに押し寄せました。5年近く経った現在も90万人にものぼる人々が故郷に戻ることができず、難民キャンプでの生活を余儀なくされています。ジャングルを切り拓いた劣悪な環境の中、急性水様性下痢やコレラの蔓延、新型コロナウイルス感染症の拡大に加え、サイクロンなどの自然災害や大規模火災など、キャンプで生活する子どもたちは常に様々なリスクに脅かされ続けています。また、キャンプの外でも、多くの地元住民が、ロヒンギャの人々を迎え入れたために以前より厳しい生活を強いられています。ユニセフは、ロヒンギャ難民の子どもたちの命を守り未来を切り拓くために、キャンプの内外で活動を続けています。
※データは主に外務省 HP、『世界子供白書 2019』による。
※地図は参考のために記載したもので、国境の法的地位について何らかの立場を示すものではありません。