vol.275 2022 autumn

U-Report

[022] U-Report

若者の「参加する権利」の促進と能力育成を目的とする携帯電話のショートメールやSNSなどを活用したユニセフの情報交流システム

未来だけでなく今日

未来のリーダー、未来の担い手、未来の創造者……若者はしばしば「未来」という単語をともなって表現されます。しかし、いうまでもなく彼らは「現在」の社会の重要な一員で、世界を現在進行形で牽引する大きな可能性を秘めた存在です。

今日、世界の2人に1人が30歳未満の若者といわれています。彼らが重要な意思決定に加わっていないままで、持続可能な世界は達成できるでしょうか。ユニセフは、若者がもっと地域社会づくりに参画し、その声を政策に反映させる仕組みが必要だと考えます。そうした理念のもとで開発されたのが「U-Report」です。

若者を社会発展に巻き込む

U-Reportは、携帯電話のショートメールやSNSなどの情報交流サービスを基盤としたシステムです。若者の社会参加の促進と能力育成を目的として、2011年にユニセフ・ウガンダ事務所によって開発されました。

その後、「U-Reporter」と呼ばれる登録者の数は増え続け、今日では94カ国2300万人にのぼります。スマートフォンだけではなく、旧式の携帯電話からも参加可能で、誰でも無料で利用できます。投稿は匿名のため、安心して自分の意見を発信できます。

U-Reporterの携帯電話には、若者世代にとって重要な問題について尋ねるアンケートが定期的に届きます。テーマは教育から保健衛生、若者の雇用問題までさまざまです。質問に答えると、寄せられた回答は即時に分析され、公開されます。

ギリシャのU-Reporterのスマートフォンに送られてきたメッセージ
© UNICEF/UN0631116/

行政は、そうして集められた若者の意見を政策上の意思決定に反映することができます。同時に若者たちからも、アンケートについて同世代間で意見を交換するうちに自分の地元により関心を持つようになり、地域の活動に積極的に参加するようになります。

U-Reportは、若者を未来の担い手としてだけではなく〈今日の担い手〉として社会の発展に巻き込むための有効なツールなのです。

チャドのU-Reporterたち
© UNICEF/UN0583527/Dejongh

U-Report先進国の成果

ウガンダに続くU-Report先進国のひとつが、中部アフリカにあるコンゴ民主共和国です。コンゴにおけるU-Reporterの数は、この1年で50万人から300万人に急増しました。U-Report実施国の中でも突出した伸び率を記録したことについて、ユニセフ・コンゴ事務所のイノベーション専門家は「U-Reportが、若者が抱えている問題への具体的解決策を模索できるコミュニケーションツールである証拠」と語ります。

コンゴでは2019年以降、U-Reportで29件のアンケート調査が実施されました。集計結果はウェブサイトで即時に確認でき、SNSやメディアを通じて拡散されます。そこから社会的な対話が生まれたり、人々の意思決定プロセスに影響を与えたりしながら波及していきます。

2021年7月の国際青少年デーには、青少年省が若者に「あなたにとって重要な問題は?」と尋ねる調査を行い、17万5000人から「起業、雇用、研修」といった回答を得ました。また、同年10月には公共放送の改善に関する調査も実施され、政府がその結果を反映して公共放送の再活性化を目指すと明言しています。

さらにコンゴでは、U-Reportは単なる意見表明の場にとどまらず、〈若者による、若者のための〉行動の場となっています。自分たちの地域をよくしたいと願う若者たちによって、これまでに40以上の意見交換の場が形成されました。そこから、地域の課題を自ら特定し、行動を起こす人たちがいます。たとえば、東部ゴマのストリートチルドレン支援センターでは、300人超のU-Reporterたちが植樹や清掃活動を行いました。

ユニセフ事務局長キャサリン・ラッセルにスマートフォンのスクリーンを見せるコンゴのU-Reporter
© UNICEF/UN0632960/Mokili

課題は女性参加

そんなコンゴが見すえる今後の課題は、女子の参加率向上です。現在の登録者は男子が69%を占めています。これを受けて、2022年には女子による、女子のための「U-Report Girls」の立ち上げが計画されています。脆弱な立場に置かれることが多い女の子たちが声をあげ、情報にアクセスし、団結して問題に取り組むための触媒として、U-Reportが活躍することが期待されます。

学生に活動を紹介するブルキナファソのU-Reporterたち
© UNICEF/UN0640646/Dejongh

コロナ禍の役割

U-Reportは意見を発信するだけでなく、必要な情報を瞬時に得られるツール。WHOが新型コロナウイルス感染症による緊急事態を宣言した翌月の2020年2月、ユニセフは、新型コロナウイルスに関する情報を発信するための「チャットボット機能」をU-Reportに搭載しました。チャットボットは人工知能を活用した自動会話プログラムです。ユーザーがこの感染症に関する質問をU-Reportに送ると、専門家による適切な回答が自動で届きます。人々が正確な情報を得られるのはもちろん、ユニセフや行政が人々のニーズを把握する手段としても機能するなど、重要な役割を果たしました。

新型コロナウイルス感染症チャットボット
© UNICEF/UNI313021/