世界の現場から
未来に向けて声をあげる
Ethiopiaエチオピア
─慣習の壁に挑む少女たち
「FGM(女性の性器の一部を切除してしまう慣習)について学んだのは、小学5年生のときでした。それまで誰からもこの慣習の影響について教わったことがなかったので、とてもショックだったのを覚えています。しばらくして、母の友人が母に、私たち姉妹にFGMを受けさせるべきだと話しているのを耳にしました。私は学校で学んだことを母に伝えようとしましたが、聞き入れてもらえませんでした」─エチオピアの南西部に住むメスケレムさん(16歳)は当時のことをこのように語ります。
メスケレムさんが暮らす地域では、この古い慣習がまだ根強く残り、15歳から49歳までの女性の62%がFGMを受けています。「ある日、私と妹たちに施術するため、老人が家を訪ねてきました。私は妹たちを台所に隠し、『誰にも私たちを触らせない、触ったら訴えるから!』と声をあげて必死に抵抗しました」。
「娘はFGMについて学校で学んだこと、とりわけ健康への有害性について訴え続けましたが、私は、娘が伝統的な慣習を守らないことを当初はとても恥ずかしく思っていました」と母親のファイヤーワークさんは語ります。「娘たちが差別されることを恐れ、その後もFGMを受けさせたいと思い続けてきました。でも、娘や夫から、それがいかに健康に悪影響を及ぼすかをくり返し説かれ、次第に理解するようになりました」。また、父親のムレタさんも、こう振り返ります。「以前、有害な慣習に関する問題を話し合う政府の会合に呼ばれ、家でも話してみましたが、妻は納得してくれませんでした。慣習を受け入れなかった場合、地域からつまはじきにされることを恐れたのです。だから、娘が学校で学んだことを活かして私をサポートしてくれたことが嬉しかった。彼女は自分の母親ばかりでなく、隣人や学校の仲間たちの考え方も変えました。娘は私の誇りです」
エチオピア政府は、2025年までに児童婚とともにFGMを撲滅するという公約を掲げています。ユニセフは、思春期の女の子を対象に、学校内外の活動を通じてFGMや児童婚などの伝統的な慣習が及ぼす弊害や法律に関する知識を提供し、ライフスキル(日常生活に生じるさまざまな問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な力)の向上を支援しています。女の子たちが自らネットワークを築き、こうした有害な古い慣習に立ち向かっていけるよう、発言力や主体性を高めていくことも重要な目的のひとつです。
また、ユニセフは、地域社会全体に行動変容の輪が広がるよう、宗教指導者や地域の有力者、メディアなどを通じ、ジェンダーの不平等を増長させるような慣習や社会規範について疑問を投げかけています。
学校に創設されたジェンダークラブは、生徒たちがFGMのような有害な慣習に取り組む上で互いに支え合う場として重要な役割を担っています。メスケレムさんはここで、自分の体験や家族の考え方の変化について話したり、意見交換したりしています。「私が最初に問題を提起したときに、男子は私を笑いものにしていました。でも今は、FGMに反対する男の子たちが一緒に活動してくれるようになりました」
メスケレムさんは言います。「これまでは学校で話したり、友人の家を訪問したりしていただけでしたが、今後はもっと大きな場で、女の子や女性の権利について話していきたいです。農村地域にも行って、自分の経験を伝えたい。FGMと闘う女の子たちを勇気づけ、FGMが完全に過去の慣習となるまで反対の声をあげ続けます」
面積:109.7万平方キロメートル(日本の約3倍)
人口:約1億1,787万人(2021年:世界銀行)
5歳未満児死亡率:55/1000出生あたり(2018年)
FGM(female genital mutilation)とは、アフリカや中東、アジアの一部の国々で現在も行われている、女性の性器の一部を切除する慣習で、乳幼児から15歳までに行われるケースがほとんどです。少なくとも31カ国で2億人の女の子と女性がFGMを受けたとされます。この慣習は、女性性器を取り除くことで若い女性の性欲をコントロールできるという誤った考えから行われていますが、施術の多くが、不衛生な環境で、医療知識のない者の手で行われるため、大量の出血や感染症を引き起こし、命を落とす危険性も伴います。また、不妊、出産時の出血などの後遺症のほか、精神的なトラウマにも苦しめられます。ユニセフは、国連人口基金(UNFPA)とともに、FGM根絶に向けて、この有害な慣習の根底にある女性差別を解消するため、健康や教育、収入、社会的役割の面で男女平等に近づくよう支援を続けています。
※データは主に外務省 HP、『世界子供白書 2019』による。
※地図は参考のために記載したもので、国境の法的地位について何らかの立場を示すものではありません。