vol.279 2023 autumn

ブルードット

[026] ブルードット

ブルードット…生まれ育った故郷を逃れてきた子どもたちとその家族に一時的な保護と、生活のサポートや心のケアを提供する拠点。「欧州難民危機」(2016年)で、初めて導入された

ウクライナ紛争の激化を受け、ユニセフとUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が協力し、ポーランドやモルドバ、ブルガリアやスロバキアなど周辺7カ国、約40箇所に設置した「ブルードット」。ウクライナから避難する人々が安全に目的地にたどり着けるよう、必要な情報やサービスを提供する支援拠点として、主要なルート上や鉄道駅付近に置かれ、人々を目的地まで導く大切な中継地点の役割を担っています。

ルーマニアのブルードットで子どもたちに読み聞かせ
©UNICEF/UN0633891/Holerga

これまでに避難民の数がとりわけ多いポーランドでは54万人、スロバキアでは8万人をこえる人々がブルードットを利用しました。

旅の中継地点

2022年2月の紛争激化から1カ月で約430万人もの子どもが国内外に避難する事態となり、750万人いた同国の子どもの半分以上が家を失う世界最大規模の難民危機となったウクライナ紛争。

モルドバへ子どもとともに逃れたエレナさん(34)は「家のバルコニーから銃と軍用車が見え、兵士が発砲するたびに家が揺れました。歩いてモルドバとの国境をこえ、やっとの思いでたどり着いたブルードットで、なにか必要なものはないかとスタッフが親身に声をかけてくれたときはほっとしました」と話します。

ポーランドへ避難したルバさん(20)は「ここへたどり着くまでに3日かかりました。電車は国内西部へ避難する人々で混み合い、4人掛けの席に9人が座っていました」と語ります。

国境付近のブルードットは遅い時間でも開いており、避難民をサポートしています( ポーランド)
© UNICEF/UN0766222/Reklajtis

こうした人々に向け、水や食料、衣類や衛生用品といった必要な物資の提供のほか、難民申請の手続きを行ったり、避難先での教育や雇用の機会について、長期滞在できる施設や受けられる資金援助についてなどの有益で幅広い情報を提供したりするのがブルードットです。

ソーシャルワーカーや心理学者が常駐し、トラウマやストレスを抱える人々がカウンセリングを受けたり、専門的な支援を受けたりできる態勢も整っています。

日常をとりもどす安心安全の空間

また、すべてのブルードットには「子どもにやさしい空間」が設けられています。

紛争という突然それまでの世界が崩れるような過酷な経験をし、家族や友人、慣れ親しんだものから離れなければならなかった子どもたち。おもちゃやゲームで遊んだり、絵を描いたり、スタッフや他の子どもたちと話したりすることができる空間は、不安や恐怖から少しでも解放され、安心した気持ちをとり戻す場所になります。

ドイツへの避難の道中、ブルードットを利用する5歳と12歳の男の子とその母親(ルーマニア)
©UNICEF/UN0609927/Holerga

ルーマニアのブルードットで活動するユニセフのユリア・ユロバ広報官は「子どもにやさしい空間に来た子どもたちはさまざまな反応を示します。殻に閉じこもってしまう子どもや、涙を流す子ども。ほとんどの子どもは最初は言葉を発しようとしません」と話します。そうした子どもを空間内の専用のテントに迎え入れ、「いっしょに絵を描こう」などと語りかけると、次第に心を開き、自己紹介をして他の子どもたちとも話し始め、いつしかテントは子どもたちの声で包まれると言います。

お絵描き中の6歳のエヴァさんを見守るユリア広報官(ルーマニア)
© UNICEF/UN0624672/Holerga

「たいへんな危機のなかでも、少しでも子どもたちに良い記憶が残ってくれれば─—」そうウクライナ出身の彼女は願っています。

2023年6月時点、約620万人がウクライナ国外へ避難。人々が支援を受けやすい場所に設置したり、移動式のチームを編成して活動したりとブルードットを活用した活動は支援の輪を広げて続いています。

日本でも活躍した〈子どもにやさしい空間〉

2011年3月に発生した東日本大震災の際も、各地の避難所で、ユニセフの「子どもにやさしい空間」が活躍しました。おもちゃや文房具が入った「箱の中の幼稚園」や遊具やスポーツ用品が詰まった「レクリエーションキット」を各地へ届け、子どもたちが安心・安全に遊んだり、学んだりできる空間を提供。ユニセフ・ソマリア事務所から支援に駆けつけ、宮城県でフィールドマネージャーとして活動した國井修さんは当時、「ぬいぐるみを手渡したとき、子どもたちが満面の笑みを浮かべたのを見て、涙があふれそうになりました」と報告しています。キットはそれぞれ100セットが避難所だけでなく幼稚園や保育園にも届けられ、安心・安全な空間づくりに活用されました。

岩手県釜石小学校に設置された「子どもにやさしい空間」(2011年4月)
© 日本ユニセフ協会

※地図は参考のために記載したもので、国境の法的地位について何らかの立場を示すものではありません