vol.283 2024 autumn

report

「子どもにやさしいまち」は
みんなにやさしいまち
─地域で子どもの権利を実現するために

子どもにとってもっとも身近な行政単位である市区町村で、ユニセフが子どもの権利条約を具現化するため推進する「子どもにやさしいまちづくり事業」。英語の頭文字をとってCFCI(Child Friendly Cities Initiative)とも呼ばれるこの事業には、現在、40の国と地域で3,000以上の自治体が参加しています。

国際的な基準に照らして

シンポジウム「こどもにやさしいまち推進とこども環境」
パネルディスカッションの様子
Ⓒこども環境学会

子どもにやさしいまちづくり事業(CFCI / Child Friendly Cities Initiative 以下CFCI)は、日本では2021年に正式に開始されました。現在、北海道ニセコ町、安平町、宮城県富谷市、東京都町田市、奈良県奈良市の5つの自治体が「CFCI実践自治体」として参加しています(*)。

国や地域で環境が違っても、子どもの権利を保障するため、CFCIには基準や枠組みが設けられています。5つの参加自治体は以前から子ども施策を積極的に推進していましたが、CFCIを通じて国際的な観点にも照らし、より良い施策や事業へ改善しながら、真に子どもの権利を実現するまちをめざしています。

*その他、愛知県豊田市、埼玉県三芳町はCFCI実践自治体としての参加をめざしている

各自治体における取り組み

ユニセフ子どもの権利スペシャルアドバイザー、マニュエル・フォンテーンからもメッセージが寄せられた
©日本ユニセフ協会

ニセコ町は以前から、条例にもとづき、〈子ども議会〉など子どもたちのまちづくり参加の取り組みを進めていましたが、CFCI参加以降は対象をさらに広げ、いっそうの充実を図っています。また、組織体制を見直し、教育委員会のなかに「こども未来課」を新設。子どもに関する業務を一元化しています。

安平町では、CFCI本格実施前の検証作業に参加していた2018年に北海道胆振東部地震で町内の中学校が被災。学校再建に向け、学校生活の主体である子どもたちとともに進めることに重点を置き、多くの子どもの意見を聴くための場を創出して、子どもの声を大切にしながら再建に取り組みました。

富谷市ではCFCIの本格実施にあたり、すべての部署が参加する「富谷市子どもにやさしいまちづくり推進庁内連携会議」を設置。自治体の最上位の総合計画に「子どもにやさしいまちづくりの推進」を盛り込むなど、市全体で「子どもにやさしいまち」の実現をめざす体制づくりを進めています。

必要とされる「子どもの視点」

日本でCFCIが開始されて丸3年となる今年6月、東京でシンポジウム「こどもにやさしいまち推進とこども環境」が開催され、3つのCFCI実践自治体の首長と高校を卒業したばかりの若者2名により活発な議論が繰り広げられました。

シンポジウム前半は、各自治体の取り組みをそれぞれの首長が紹介。その後、若者からの質問を受ける形で進められた質疑応答では、川崎レナさん(18歳)が、「意見を聴いてほしいと思うけれど、子どもの意見を聴いてそれを政策に反映するのはとても大変なこと。なぜそんな取り組みをするの?」と質問。ニセコ町の片山健也町長は「ニセコ町は大自然に囲まれ、海外からもたくさんの方が来てくれるので自然環境や景観を守ることはとても大事。子どもは、おとなよりずっとごみの分別をしっかりやるし、SDGsについてもよく勉強しているので、特にこういった分野は子どもたちが頼り。子どもの力を借りて、まちを元気にしたい」と回答しました。

約200名の参加者の前で、自治体の首長と並んで意見を述べる若者
(左:莇生田和哉さん。豊田市の「子ども会議」委員やこども家庭庁の子ども参加の運営メンバーを務めた。
右:川崎レナさん。2022年に日本人で初めて「国際子ども平和賞」を受賞)
Ⓒこども環境学会
子どもたちからの提案でつくられた富
谷市のツリーハウス(写真提供:富谷市)

富谷市の若生裕俊市長からは、「子どもからの提案で、公園にツリーハウスをつくった。親子や市民のボランティアと一緒に何度もワークショップを重ねて完成させたので、立派なシンボルを建てるより費用はかからないし、市民にも愛着がわき、公園が元気になった。おとなとはちがう視点で気が付くことがたくさんある」といった例が紹介されました。

安平町の及川秀一郎町長は「やりたいことを後押ししてほしいという発想の意見が増えてきたと感じる。意見を聴いて対話することで、市民としてまちづくりに関心をもつようになると思う」と話しました。これに対し、莇生田和哉さん(18歳)は「ぜひ役所でも、入職する若者の声を聴いてほしいし、働きやすい環境をいっしょにつくってほしいと思う」と述べました。

おとなだけで考えることの限界

町田市の石阪丈一市長も、ビデオレターで町田市の取り組みを紹介
©日本ユニセフ協会

学際的に子どもの成育環境について研究する「こども環境学会」の設立20周年記念大会の一環として開催された今回のシンポジウム。こども環境学会は、2000年代にユニセフがCFCIの取り組みを本格的にはじめた頃から各国の研究者や実践者とのネットワークを広げ、CFCIの研究や議論を進めてきました。

日本ユニセフ協会CFCI委員会の委員長であり、こども環境学会会長である木下勇教授は、「災害や紛争の最大の犠牲者は子どもたち。一方で、世界には社会課題について意見を発信し、行動する若者がいる。正解が見えず、先の見通しにくい社会にあって、国単位やおとなだけで持続可能な社会を考えていくことの限界も指摘されている。『子どもにやさしいまち』はみんなにやさしいまち。この事業が広がっていくことを期待している」と述べました。

日本では昨年、こども基本法が施行され、こども家庭庁が発足。社会全体で子ども施策への関心が高まっています。国、地域、学校などさまざまな場所で子どもの権利が実現していく社会をめざし、ユニセフはこれからもCFCIに取り組んでいきます。

CFCIとSDGs

子どもの権利条約が採択されてから35年目であり、SDGsの目標達成期限である2030年までの折り返し地点をすぎた2024年。今回のシンポジウムに先駆け、愛知県豊田市で行われたプレ・セミナーでは、愛知県に拠点を置き、世界の各地域のSDGsを推進する国連地域開発センターの所長から、SDGsの目標はたった15%しか軌道に乗っていなことが説明されました。これまでと同じやり方では目標達成が難しいこと、および変革の必要性を指摘。SDGsへの関心が他の世代よりも圧倒的に高い、子ども・若者世代がその変革のカギを握っていることが伝えられました。子どもの声を聴き、ともにまちづくりを進めるCFCIの考え方は、SDGsの達成にもつながっています。