世界の現場から
若い心に寄りそう
Kazakhstanカザフスタン
─希望にあふれた命のために
14歳のディナさん(仮名)には、好きなことがたくさんあります。自宅の庭で植物を育てたり、リビングでK-POPの動画を見ながらダンスをしたり。けれど学校では物事がうまく進められず、同級生とも馴染めずストレスを感じています。「みんな、私とは違うと感じます。好きなことを共有できなくて─」。現在、ディナさんはカウンセリングを通じて自分のなかに渦巻くストレスや不安の感情に向き合っています。
「自分の考えを率直に表現することを教わりました。決してあきらめてはいけないと今は感じています」
2010年代、カザフスタンの若者たちは深刻な危機に直面していました。2011年には15~19歳の若者の自殺死亡率が10万人あたり21人と世界で最も高くなり、結果、自殺がこの年代の死亡原因の第1位となってしまったのです。
2012年以降、カザフスタン政府は、ユニセフやパートナー団体とともに、学校を基盤としたメンタルヘルスの普及啓発と自殺予防を目的としたプログラム「若者のメンタルヘルスと自殺予防プログラム」を立ち上げました。同プログラムのアンケート調査で強い不安とストレスの兆候が見られたディナさんは、カウンセリングを受けるよう勧められました。心理カウンセラーのセイトハノヴァさんは、「ディナさんは家族関係に問題を抱えていました。彼女とは最初の2カ月間は週1回、その後は月2回のカウンセリングを続けています」と振り返ります。
このプログラムは、学校で自殺などのリスクを抱える若者を早期に特定し、専門家による心理社会的サポートを提供することで、これまで大きな成果を上げています。2015年から2017年にかけての追跡調査で、心の病のリスクを抱えていた若者のうち、36%が自殺願望が減少した、80%が不安感が減った、56%が抑うつ気分が改善された、と回答しました。メンタルヘルスの重要性についての学校関係者の意識も高めてきました。心理カウンセラーとして15年の経験を持つビセノバさんは、自分の仕事に対する考え方が変わったと言います。「助けを必要とする子どもたちは信号を送っているのだと実感し、恐れずに子どもたちとしっかりと向き合っていこうと決意をあらたにしました」
同プログラムは、メンタルヘルスへの偏見(スティグマ)の軽減にも重点をおき、保護者へ働きかけを行っています。クズロルダでは若者は保護者の同意がなければプログラムを受けることができません。そこで、学校関係者や医療従事者が保護者向けにメンタルヘルスに関する正しい情報を伝える啓発活動を行い、結果、メンタルヘルスの検査を拒む保護者は、2015年の11%から2016年は5%に、2017年には1%に減少しました。
カザフスタン政府は、子どもや若者のメンタルヘルスを重要な課題として認識し、思春期のメンタルヘルス対策を主要事業として位置づけて関連予算を25%増額しました。しかし、心の健康の回復は、最終的には子どもや若者たち一人ひとりの生活の改善によって成し遂げられます。今、ディナさんも自らの足で歩み、継続的なカウンセリングで自信をとり戻しつつあります。「どんなことがあっても、前に進み続けたい。自分の心と向き合って、困難を乗り越えることで、その先に進むことができると思うから」
面積:272万4900平方キロメートル(日本の7倍、世界第9位。旧ソ連ではロシアに次ぐ)
人口:1,920万人(2022年:国連人口基金)
5歳未満児死亡率:10/1000出生あたり(2021年)
ユニセフの支援で導入された「若者のメンタルヘルスと自殺予防プログラム」では、学校を拠点に、教育関係者と医療従事者が連携しながら、思春期の若者たちに様々なサポートを提供しています。プログラムの導入にあたり、ユニセフは、心理カウンセラーを含む学校関係者11万6000人に、心の問題を抱える若者の特定と対応に関する研修の実施を支援。心理の専門家1500人にも、若者に特有のメンタルヘルス問題に関する研修機会を提供しました。また、これら専門家や教育・医療関係者とともに、保護者への働きかけにも取り組んできました。これまでに1万人を超える若者が、このプログラムが提供するカウンセリングを利用。利便性を高めるため、オンライン・カウンセリングの規模拡大にも取り組んでいます。
※データは主に外務省HP、『世界子供白書2021』による
※地図は参考のために記載したもので、国境の法的地位について何らかの立場を示すものではありません