世界の現場から
未来を守る証明書
Chadチャド
─ 出生登録
チャド西部に位置するラク州ボルの州立病院─今日はンジャンガッタさんと息子のガボヒナくんにとって、特別な1日になりました。生まれて3カ月が経つガボヒナくんの出生証明書を、ようやく受けとることができたのです。「出生登録の大切さを知って、この子のために届出をしようと思いました」とンジャンガッタさん(23歳)はほほ笑みます。
2023年の統計によると、世界の5歳未満の子どもの4人に1人が出生登録されていません。出生登録が低い国では特に、政府が子どもの出生を把握できず、教育や保健などの公的サービスを受けられないおそれがあります。チャドはとくに深刻で、役所が遠かったり、人々が出生登録の重要性を知らなかったりすることで、5歳未満の74%もの子どもたち約400万人が出生登録を済ませていないと推計されています。
自宅で出産したンジャンガッタさんも、ほかの多くの親と同様、息子の出生登録を済ませていませんでした。彼女が出生登録の大切さを知ったのは、産後3カ月経って病院を訪れた時です。助産師から出生登録の重要性について説明を受け、病院内に設置されたばかりの出生登録事務所であれば、無料で数分以内に出生証明書を得られることを知りました。それを聞いたンジャンガッタさんはすぐに手続きに来たのです。
ンジャンガッタさんが訪れた病院内の出生登録事務所は2023年11月にユニセフの支援で設置されました。産科病棟で生まれたばかりの子どもや、予防接種を受けに来た未登録の子ども、地域保健員が未登録であることを特定した子どもに、出生証明書をすぐに無料で発行できます。健診や予防接種のついでに、出生登録から証明書の発行までワンストップでできる恩恵を多くの住民が感じています。
この病院で生まれた2人目の子どもの出生証明書を申請に来たブーカルさん(40歳)は、「1人目のときは遠い役場まで手続きに行く必要があり大変でしたが、この事務所ができてとても便利になりました。出生証明書は生きていくうえで必要なサービスを受けるのに大切な書類なので、私の子どもたちは全員持っています」と、そのありがたさを実感しています。
この出生登録事務所で働くファティメさん(25歳)は、未登録の子どもの有無の把握から、証明書の発行、さらに出生登録の重要性を地域住民に伝える業務まで、さまざまな仕事をこなしています。産院内では、未登録の子どもがいないか常に確認しているほか、毎週金曜日には市内の保健センターを訪れ、予防接種を受けにきた子どもがすでに登録されているかを確認。未登録の子どもを発見すると、その都度、出生登録の重要性を親に訴えます。
なかには出生登録の申請を拒む親もいますが、ファティメさんは根気強く働きかけます。「近所で洗礼式や行事があるたびに、地域の人々に出生登録の大切さについて話をします。すべての子どもが出生証明書を持つことが願い。私はこの仕事が大好きです」と自信に満ちた表情でいいます。
ファティメさんの事務所では、2023年11月の開設から約半年間で130人以上の子どもたちの出生登録をおこないました。親子が手にする出生証明書こそ、その子どもの権利が保障されるための第一歩。その未来を守ってくれる証明書となるのです。
面積:128.4万平方キロメートル(日本の約3.4倍)
人口:1,718万人(2021年、世界銀行)
5歳未満児死亡率:107/1000出生あたり(2021年)
低迷しているチャドでの出生登録率の改善を目指し、2022年8月、EU(欧州連合)とユニセフは、総額280万ユーロの資金で3年間の支援プログラムをスタート。国内5つの州で産科病棟での出生登録体制の強化や制度の整備を進めています。それに先立つ2019年には、日本政府の協力で、とくに優先的な支援が必要とされる7州での出生登録や予防接種制度の強化のための活動をスタート。出生登録の手順を地域保健員たちに教える研修の実施や、子どもたちの命を守るワクチンを保管・管理できる太陽光発電式冷蔵庫の調達・設置などの支援をおこないました。
※データは主に外務省HP、『世界子供白書2021』による
※地図は参考のために記載したもので、国境の法的地位について何らかの立場を示すものではありません