各界で活躍されている方に「子ども時代」を振り返っていただきながら、世界中のすべての子ども、一人ひとりの子どもたちにとって必要なことは何かを考えていく連載企画「for every child,_」。第28回は、NHK連続テレビ小説「エール」でのはつらつとした演技や、モンゴルを舞台にした大ヒットドラマへの出演が記憶に新しい俳優の二階堂ふみさん。NHK EテレのSDGs番組のマスコットキャラクター光の妖精キイの声を担当したり、WEB雑誌で社会の様々な課題についてゲストと語り合う連載を行ったりと、積極的に社会問題と向き合う発信も続けています。生まれ育った沖縄の影響を強く受けているという彼女の、過去と未来への想いを伺いました。
沖縄の中心地・那覇で生まれ育ち、子どもの頃に住んでいたアパートは飲み屋街の中にありました。近所には多種多様なおとながいて、子どもながらに「色んな生き方があるんだな」と体で覚えていった感覚です。私自身は一輪車が大好きな活発な子で、周りには寛容なおとなが多かったので、のびのびと過ごした思い出があります。おとなと子どもが混在する街だったので、子どもの前で政治や社会問題についてフランクに話すことも多く、よくわからなかったけど、聞いているうちにいろいろなことを考えるようになった気がします。
よく覚えているのはアメリカ同時多発テロの日のこと。私は当時7歳でした。ショッキングな映像を見て「自分の知らない世界で、こんなことが起きているのか……」と知ると同時に、米軍基地の周囲でセンシティブな空気が流れ始めたのを感じたり、基地に住んでいた幼なじみの父親がイラク戦争に行くかもしれないという話があったり、遠い世界で起きていることなのに身近にいる人たちにも影響が及んで、いろいろと感じる場面がありました。そういう地域で育ち、さらに沖縄はわりと早い段階から平和教育が始まるので、小さい時から「なんでそんなことが起きるんだろう」と自然に考えるようになったと思います。
沖縄なので日常的にきれいな海が身近にあって、自分にとってはそれが当たり前でした。でも、学校で沖縄の歴史を教えてもらって、先の戦争で海でたくさんの人が命を落としたこと、また、人だけではなく海の生命もどんどん失われていることを知って、自分がいつも見ていた美しい海の背景に、悲しみがたくさんあるんだなと考えたりしました。
最近は環境汚染の問題もあり、きれいな海や美しい自然が当たり前でなくなりつつあります。自然があって生かされている人間。その大きな自然や地球そのものを感じられるような海の美しさは、子どもたちにいちばん残していくべきものだと思います。私が子どもの頃に見ていたきれいな海を未来の子どもたちに残せるように、小さなことでもできることからやっていきたいと思っています。
俳優として、社会派の作品に参加させていただく機会があります。自分の中できちんと当事者として考えたいと思うことが描かれている作品には、俳優という立ち位置で向き合いたい。そんな気持ちで参加させていただいています。出演作をご覧になったり、私の発信を受け取った方々が、なにに心を寄せたり関心を持ったりするかはそれぞれ違うと思いますが、私の活動がなにかを考える、ちょっとしたフックになればいいなと思います。
沖縄県出身。2009年に役所広司の初監督作『ガマの油』のヒロイン役で映画デビュー。以降、数々の映画やテレビドラマで活躍し、2023年には、障がい者施設で起こった実在の事件が題材の話題作『月』で数々の映画賞を獲得するなど、演技派俳優として存在感を増している。