vol.285 2025 spring

culture

テーマ「命を輝かせる」

book『子どもたちの遺言』

谷川俊太郎 詩/田淵章三 写真/佼成出版社

生まれたばかりのへその緒がついたままの赤ちゃん、友だちと野原を駆け回る少年、夜のコンビニでアルバイトをする青年――。子どもたちが20歳までに見せる一瞬の表情をとらえた田淵章三氏の写真に、谷川俊太郎氏の詩が添えられた一冊です。

「子どもたちの遺言」と名付けられた詩は、多くのおとなたちにとっては、まだ若く、孤独や不安を抱えてさまよっていた自身の姿を、なかでも子育て中のお父さんお母さんにとっては、記憶のなかの子どもの姿や成長していく未来の姿を思い起させるのではないでしょうか。

一瞬一瞬を精いっぱい生きながら、体の成長とともに揺れ動く子どもたちの心。その変化に、私たちは寄り添えているのか、いまを生きる子どものためにもっとできることがあるのではないか――そんな思いが湧いてきます。

谷川氏はあとがきで「死に近づきつつある大人よりも、まだ死からはるかに遠い子どもが大人に向かって遺言するほうが、この時代ではずっと切実」だとの思いから一連の詩を綴ったと書いています。不安と混迷の時代のなか、子どもたちのためにできることがきっとあるはずです。


『素晴らしき哉、人生!』
(1946年/米国、原題”It’s a Wonderful Life!”)
デジタル・リマスター版 4K Ultra HD+ブルーレイ: 6,589 円 (税込)
デジタル・リマスター版 Blu-ray: 2,075 円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
amazon prime video等にても配信中(2024年12月末日現在)

movie『素晴らしき哉、人生!』

幼いころから周囲の人たちを気遣い、自身の夢をあきらめ父親の会社を継いだジョージ・ベイリー。それでも前向きに街の人々のために家族と奔走する日々を送っていた彼に、ある年のクリスマスイヴ、人生最大の苦難が訪れます。ジョージは絶望し海へ飛び込もうとしますが、そこに見習い中の天使だという男が現れ――。

米国でクリスマスシーズンに繰り返し放映されるこの映画は、なぜ70年以上も人々の心をとらえ続けるのでしょう。そのカギは、ジョージの自殺を食い止めた見習い天使が、「俺なんか生まれてこなければよかった」という彼に「ジョージ・ベイリーという人間が最初から存在しなかった世界」を見せてくれるくだりにあります。自信をなくした人は「この世界で何の役にも立っていない」と思いがちですが、じつはどれほどの人々を幸せに導いてきたか……。それを知ったジョージの心に希望の灯がよみがえります。すると、現実の世界でも奇跡が――。

王道の筋書でありながら、ラストに訪れる歓喜と涙。地上に循環する「隣人愛」や「良心」について深く考えさせられる一作です。

※なお、ウィル・スミス主演の『素晴らしきかな、人生』(2016年/米国、原題”Collateral Beauty”)は、原題も異なる、別の物語です。