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テーマ「善意の連鎖」
白杖を手にバスを待っていた男性に「おはようございます。バスが来ましたよ」と声をかけたのは、小学生のさきちゃん。難病に視力を奪われたその男性は、ちょうど不安を抱えながらひとりでバス通勤をはじめたところでした。
以来、さきちゃんは毎日、男性がバスに乗降するお手伝いをするように。そしてその姿を見守っていた子どもたちによって、さきちゃんが卒業した後も、ぬくもりのリレーが10年以上にわたり受け継がれていく─これは実話がもとになったお話です。
だれもが心に、さきちゃんと同じ気持ちを持っているはず。ただ行動に移すとなると勇気が要り、なかなか踏み出せないこともあります。そんなとき、まっすぐな子どもたちの行動が次の誰かの背中を押してくれるのかもしれません。
どんな小さな思いやりでも、受け取った人の一日は変わります。見ていたまわりの人にも変化が起こるかもしれません。小さなあたたかい善意が波紋のように広がっていったら、世界はきっと、もっとやさしい気持ちで包まれるのではないでしょうか。
舞台は兵庫県の宝塚駅と今津駅の間を結ぶ阪急今津線。この片道15分の短い路線に白いドレスを着た女性が乗っているのを、祖母と乗車していた女の子が目にとめます。
「おヨメさんだ!」とはしゃぐ孫を、「お嫁さんはひとりで電車になんか乗らないでしょ」と静かにさとす祖母。その会話を耳にした白いドレスの女性は、ドアの方を向いたまま「ごめんね、お嫁さんじゃなくて」と泣き出してしまいます。
「よかったら、話してみない? 通りすがりの野次馬に」と、祖母が女性に声をかけ、隣の席へ誘うところから「奇跡の連鎖」が始まります。やがて、恋人のDVや、苦手なママ友たちとの付き合い、同級生のいじめなどに悩みながら同じ電車を利用していた人々の日常が少しずつ交錯し─。
たまたま同じ車両に乗り合わせただけの人々。その一人ひとりが、自分と同じように人に言えない悩みや辛さを抱えた人間なのだ、という社会におけるもっとも大切な気づきを、味わい深く、胸に刻み直してくれる作品です。