culture
テーマ「公平を求めて」
女性はズボンを履いてはいけない、そんな「常識」が存在した時代がありました。
主人公のモデルとなったメアリー・エドワーズ・ウォーカーは、1832年、米国北東部の港町で生まれました。当時の女性としては異例なことに、医学部を卒業し、南北戦争では合衆国陸軍軍医として活躍。動きやすく機能的なズボンを好んではき、そのことを理由に何度も逮捕されるのですが、「私は私の服を着る」という信念を貫き、女性の権利拡大や衣装改革に生涯を捧げました。
メアリーが生きた時代から百年以上たった今でも、私たちの社会では、ともすれば性別や年齢、立場や「常識」といったものにとらわれ、周囲と異なる言動をすると、とたんに「変わり者」と扱われてしまうことがあります。
世の中の「常識」に素直に疑問を抱き、「自分らしさ」を守るために闘ったメアリー。その物語は、「女らしさ」「父親らしさ」「年齢相応」といった固定観念にとらわれがちな私たちの胸に、「もっと自由に生きていいんだよ。自分らしさを忘れないで!」というストレートな激励のように響いてきます。
国史上2人目の女性最高裁判所判事として女性や若者を中心に絶大な人気を誇り、人々に惜しまれながら2020年に世を去ったルース・ベイダー・ギンズバーグ(通称RBG)のドキュメンタリー。
1933年ニューヨーク、ブルックリン生まれ。女性への差別がまかり通りながら差別する側にその自覚が希薄だった時代に、弁護士として性差別撤廃に多大な貢献を果たしたRBG。1993年60歳の時、クリントン政権下で最高裁判事に任命された後も、納得できないことには真っ向から反対意見を述べ続け、米国社会に根強くはびこる課題を浮き彫りにしました。
それでいて「男勝り」ではなく、常に抑制のきいた聡明さのなかにおちゃめなきらめきをのぞかせる彼女は、オードリー・ヘップバーンさながらの「愛されキャラ」。「自立した淑女であれ」という母親の教えを貫き、世の人々の尊敬と賞賛を勝ちとっていきます。
けっして「華麗な」といった一語では片づけられない、その地道に積み上げられキャリアと、それを支えた信念と愛を、女性監督のカメラが鮮やかにとらえます。